2008年11月4日火曜日

ひねくれ婆と明神様

ここで、ちょっと昔話を一つ
福島のお話です。
昔、磐城の国蓑輪の里のはずれに耕土にいう小さな村がありました。
その名の通り、こんもりと茂った高台には小さな明神様が奉ってありました。
村人達は畑で取り入れがあったり、よそから珍しいものをもらったりすると「まず明神様に」とお供えするぐらい、
この明神様をありがたがっていました。
そんな中、一人のひねくれもののばあさんがおって、明神様にお参りするでもなく、村人達のお供えを平気で持ち帰り食べてしまったりしていた。
そんなばあさんを見ては村人は「今に罰があたるぞ」と注意していたが、ばあさんはまったく耳を貸そうとしなかった。
そんなばあさんを見て隣のじいさまが様子を見にきた。じいさまはばあさんが嫁に来た時から知っていたが、
つれあいのじいさまと一緒の頃は真面目で働き者だったのに、じいさまが死んでから野良仕事もせず悪さばかりしているので、
その理由を聞いてみた。だがばあさんはじいさまの話などするなとすねるばかりで、いっこうに理由を語らなかった。
そんなある日、村のある家で隠居が往生を遂げ、葬式を出すこととなりました。
村に葬式がある時は、村人は遠慮して明神様の前は通らないようにしていました。
ばあさんの隣の家のじいさまは、ばあさんを葬式に誘った。
ばあさんは面倒くさそうだったがとりあえず葬式に行くことにした。
2人は一緒に隠居の家に向かったが、ばあさんはじいさまを逆の道を行こうとしたので、じいさまはどこへ行くのかと聞いた。
するとばあさんは明神様の細道を行った方が早いと言う。
じいさまは今日は縁起が悪いから明神様の道は遠慮した方が良いと言ったが、ばあさんは聞き入れずさっさと歩いていってしまった。
ばあさんは歩きながら「村の決まりがなんじゃ、明神様のしきたりがなんじゃ、この世の中には神様なんておりゃせん。
神様がおるならおらを一人残してじいさまが死ぬわけはない」と独り言をつぶやいた。
そして明神様のほこらの前を通りかかった時、突然空が曇り、
強い風が吹いたかと思うとどこからともなく七色の雲が飛んで来て、そこから大きな白髪の老人が現れた。
ばあさんが驚いてお前は誰だと言うと、「わしはお前にいつもお供え物を取られている明神じゃ」と言った。
ばあさんは驚いて腰を抜かしてしまった。そして明神は「今まで取ったお供物を全部返せ」と言った。
ばあさんが食べてしまったものは返せないと言うと、明神は
「ならばお供物を味わったその舌をもらう」と言ってばあさんの舌を抜いてしまった。
それ以来、ばあさんはしゃべることも食べ物を味わうことも出来なくなってしまった。
隣のじいさまが心配して様子をちょくちょく様子を見に来たが、
自慢の漬け物を食わせても、ばあさんは味もわからないしじいさまと話すこともできない。
そんなばあさんを見てじいさまは「罰が当るというのはこういうことじゃ」と諭した。
ばあさまはそれにうなずくだけだった。
そんなある夜、ばあさんは夢を見た。それはじいさまがまだ生きている頃の夢で、ばあさんは貧しいけれど幸せにすごしていた。
だがじいさまはばあさんに何も告げずどこかへ去っていってしまった。
するとどこからか「婆よ、婆よ」と呼ぶ声がする。ばあさんが驚いて起きると目の前に明神様が立っていた。
「婆よ、じいさまを死なれてから独りで寂しい気持ちはよく分かる。だが人には色々な不幸が起こる。
それをいちいち悲しみすねていたのでは人間生きてはいけん。
これからは一杯になったじいさまと思い出を励みに変えて生きていくのじゃ」と語った。
ばあさんはそれを聞いて明神様に深く礼を言った。その時ばあさんの口からお礼の言葉が出た。
明神様は舌を返してくれたのだ。そしてそれ以来、ばあさんは明神様の言った通りじいさまとの思い出を励みに変えて、
以前のように真面目に一生懸命働いた。
そんなばあさんの姿を村人も暖かく見守った。
そして明神様のおかげで、ばあさんは末永く幸せに暮らしたそうだ。

人間生きていく上で気持ちの切り替えは大事なこと。
悲しみを乗り越えてこそ良い人生が送れる、というありがたいお話でした。

これをどんな風に子どもたちに話そうかな。

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